焼津湾を見下ろす高草山。標高五百一米。古くは茶と蜜柑の山でしたが、その耕作地のほとんどは今、放棄されています。長峰製茶は二〇二一年、この山の二つの茶畑を借り受け、農薬も肥料も使わずに、再びお茶を育てる仕事を始めました。樹齢五十年のやぶきたと、樹齢百四十年余の実生在来。土地の記憶を呼び戻すような、ささやかな試みです。
私たちは茶商であって、農家ではありません。百五十年にわたって、私たちの仕事は、産地の方々が育てた茶葉を仕入れ、合組し、仕上げて、お客様にお届けすることでした。
焼津の茶商として、先人たちが築き、守ってきた茶畑が、ただ静かに藪の下へ消えていくのを見過ごすわけにはいきませんでした。五代にわたってこの山を仰いで暮らしてきた家の者として、高草山に登る方々—ハイキングの方、地元の方、午後のひとときを過ごす方—の目に、なお手の入った茶畑のままの斜面を残しておきたい、という思いもありました。
再生にあたっては、高草山の自然に任せた栽培をすることを理念にしました。農薬も肥料も使わない、自然栽培です。土地を耕作のうちに留め、茶を育て、高草山に登る方々の目に、茶畑のままの姿を残すこと。
樹齢約五十年の「やぶきた」品種。二〇一八年頃から耕作されない状態だった茶畑を、二〇二一年三月から再生に取り組んでいます。栽培方法は、無農薬・無施肥による自然栽培。
再生初年度の二〇二四年四月、初めて摘み採った茶葉から紅茶を製造しました。これが、その年の「尾張旭国産紅茶グランプリ2024」チャレンジ部門で、審査員委員長特別賞と尾張旭市議会議長賞の二賞を受賞しました。審査評では「香気はハーブ様、滋味は軽い草本系、水色は橙黄色、葉色は淡緑色」とあります。
春には萎凋を充分に行ったグリニッシュタイプの紅茶、夏には曝気時間を置いて発酵を進めた紅茶、秋には伝統的な木桶蒸しによる晩茶を、それぞれの季節の茶葉から仕立てています。
樹齢約百四十年、明治期に播種された実生在来です。放棄期間は正確には分かりませんが、おそらく二十年以上にわたって手が入っていなかったと思われます。二〇二二年一月から再生作業に取り組んでいます。栽培方法は、東の畑と同じく無農薬・無施肥の自然農法。
「やぶきた」のような均一なクローン品種とは違い、こちらは種から育った在来種です。一本一本が遺伝的に異なります。葉の形は不揃いで、収量も少なく、仕事は緩やかに進みます。二〇二四年四月には試験的に少量の紅茶を製造しました。年を追って、丁寧に再生を続けていきます。
春・グリニッシュ紅茶(やぶきた) — 再生されたやぶきた茶園の一番茶を手摘み。萎凋を充分に行ったグリニッシュタイプの紅茶です。香気はハーブ様、軽い草本系の滋味、水色は橙黄色、淡い葉色。本年、国産紅茶グランプリの入賞茶。
夏・グリニッシュ紅茶(在来) — 西の畑の在来種から、試験的に少量を仕立てる紅茶。葉も収量も不揃いな実生の特性を、そのまま茶として現します。年により、季節により、表情は移り変わります。
秋・高草晩茶(在来) — 在来の秋摘み茶葉を、枝ごと刈り取って木桶に入れ、蒸気で四十分蒸し上げます。葉が枝から自然に外れたところを蒸し上がりの目安にします。これを機械で乾燥(八十度・二十分)して仕上げる、伝統的な晩茶の製法。充分に蒸しているので香りが良く、渋みは少なく、デンプンの甘みが感じられるのが特徴です。熱湯で五分抽出するか、やかんで煮出すのがおすすめです。
お茶を淹れた後の茶殻は、まだ仕事を終えていません。同じ茶葉を使って布を染めることができます。古くは茶染と呼ばれる染色の仕事です。染色に使った茶葉は、その後、堆肥となり、再び茶畑へと戻されます。
高草山では、これは比喩ではありません。実際に動いている循環です。茶葉 → 茶染 → 堆肥化 → 茶園。それぞれの茶畑に、それぞれの斜面で育った茶葉が、形を変えながら戻っていく。
畑には、ほかには何も加えません。買い入れた肥料も、農薬も、使わない。斜面で育ったものが、斜面に戻る。小さな循環、ゆっくりとした循環。トン数や反収では計らない、季節の単位で測られる仕事です。
東の畑(やぶきた)の再生初年度、二〇二四年四月に摘み採った茶葉から仕立てた紅茶が、同年「尾張旭国産紅茶グランプリ2024」チャレンジ部門で、二つの賞を受賞しました。
審査員委員長特別賞
尾張旭市議会議長賞
出品番号 C-15、品種「やぶきた」、茶期は春。審査評は次のとおりです。水色 橙黄色/香気 ハーブ様の香り/滋味 軽い草本系の香味/葉色 淡緑色。
尾張旭国産紅茶グランプリは、愛知県尾張旭市で毎年開催される、国産紅茶の品評会のひとつ。チャレンジ部門は、独自の個性や新しい方向性を持つ茶に対して与えられる部門です。
高草山は、時間の許す方には、どなたにも開かれています。一年を通して、ハイキングの方々が斜面を登っています。笛吹段公園前を通る道筋からは、私たちが管理する二つの茶畑が、道路からも見えます。
この山に登った方が、その眺めの中に、なお営まれている茶畑を見つけてくれたら。放棄された土地ではなく、産業の退いた跡でもなく、緑の畝が、ささやかながらも、お茶を育て続けている景色を。
それが、この仕事を引き受けた理由のひとつです。山に登る方のため、斜面のため、そしてここで仕事をしてきた先人たちのため。
高草紅茶と高草晩茶は、限られた茶畑から、少量を仕上げています。お茶のイベントや展示会を中心に、お会いできる機会にお分けしています。
次のイベントの予定や、再生茶園の様子は、Instagram でお知らせしています。お茶を通じて、お会いできたら嬉しいです。